ボーダー

年末年始は実家で仕事をしていた
台所で年越料理を作る母と話しながら
居間でノートPCを立ち上げていた
無線のマウスがうまく動かなくて、小さなパッドで操作していたので
仕事が終わる頃には肩がガチガチになった


「味見して」と小鉢に切られた海鼠が出てきた
親父の好物のひとつだ。酢醤油をかけて食べた。かあ…、うめえ。
居間の仏壇の親父の遺影が「飲まねえか」と言っているようだった
元気だった頃の我が家の年越は、午前中に風呂で汚れを落とし、
昼過ぎには好物をつまみながら酒を飲み始めるのだった


井上陽水がホームバーから流れてきた
父と演劇仲間が作ったバーカウンターが台所の隣にあるのだった
母が友達にCDを焼いてもらったそうで、母の友達連中の間でも大人気らしい
陽水が歌うカバー曲は色っぽくて凄くよかった


新聞を止め、BSを止め、固定電話も解約しようとして止められた母は、
頼まれてアマゾンで買って送った、若松英輔を読んでいた
風呂場が寒いのでヒーターを入れてくれた
春になったら自転車は買うという


こんな調子で書いていると、とても長くなってしまうので
兄の到着、祖母と母に子供の頃お世話になって
老後を弘前で過ごそうとしている夫妻の豪華な食事
仕事をしながら元旦を迎え、引越中の兄と話して3日を待った
降らない日が続いていたが、前日は雪だった


3日の朝、バスターミナルに彼女を迎えに行った
予定より40分も早く到着の連絡が来て慌てたが
水商売の客を降ろしたばかりのタクシーを捕まえることができた
近所に住む同級生がママをやっているらしいのでもしかしたらと思った


待合室に彼女がいた。急に決まった初めての北国行き
装備も都会の冬仕様なのに、地元民のように馴染んでいた
さすがだなあと思って、持参した靴の下に付ける滑り止めをはめてやった


3、4日は帰省していた同僚も復帰するので、入れ替わりで休み
お昼から近所の友達の車で弘前を回ろうという計画だった
たかはし中華そば店からスタートして、藤田記念庭園や弘前公園に行った
藤田記念庭園内のカフェで、コーヒー「ひろさき」を初めて飲んだのだが
これが滅法旨くて、決定版なのだった


一緒に巡ってくれた友達はガタイが大きく、もち肌で貴族のような顔をしている
カジュアルな洋服はカラフルでお洒落で、妖精のようだねと彼女と話した
全身黒でチビの僕と「並んで歩いてるとあんたら結構クズっぽいね」と言われ嬉しい
主に彼女の写真を沢山撮って嫌がられた


神社に初詣にいったり、初めて入ったねぷた村の有料ゾーンで三味線を聴いたり
夜はキルビルに出てきそうな作りの飲み屋にいったりして、結構回れた
友達の存在は、とても有難かった。大作、本当に有難う


急に決まった帰省だったので、彼女は1日長く弘前にいた
母と仲良くなっていて、さすがだなあと思った
彼女の友達は絵描きなので、美術教師だった父の画材を引き取ってもらうことにした
できるだけ焦らず、母にも明るい気持ちになってもらいたいと
そういえば彼女に会わずに戻った兄と話したのだった