幽霊


人生に手応えを感じるには、自分がどう在りたいかという目的を持つ必要がある。目的がなければ闘争もなく、達成感も敗北感も無い。人生を歩くものとすると、目的は地面にあたる。「どう在りたいか」は職業や人間関係に関わる社会的な「外側」と、生存本能や欲望に関わる本質的な「内側」で出来ている。社会の中に産み落とされる存在である以上、それは表裏一体である。内側からの要請で外側を設定し、いずれの目的も果たされた場合は幸福を感じる。それは恋愛の成就であったり、権力を持つ事であったりする。自分の存在意義を感じたり、より大きな目的を持つ事になったりする。果たされないと失望を感じる。諦めなければ新たな目的が生じる。一方、外側から内側へ要請が来る事もある。自分の欲望の実現より優先されるべきと思うものが存在する場合だ。社会の一員で在り続けたいなら道徳や常識に反した事は慎もうと思い、「それが当たり前と感じるように」と内側に目的の調整を要請する。社会的な自分の在り方を維持しようとする時にも起こる。この外側から内側への要請がある時、人間はストレスを感じる。目的が果たされ、自分では納得しているつもりでも本質的には幸福ではない。我慢しているからであり、矯正された自分に悲しみを覚えるからだ。
アートの意義はここにある。社会を成立させつつ、個人のストレスを無化する方法の発明なのだ。瞬間的な解放感をくれるものから社会のルールそのものを変えるものまで、自分の本質から発せられ、既存の価値を破壊し得たものはアートである。社会そのものを破壊するものではない事がミソだ。社会なくしてアートは存在しないからである。
目的を持てない状態というのもある。大きな失望感から一時的に見出せない状態。それが恒常化した状態。地面が見えないスカイダイビング中のような人生。現実感がないというのはそういう事なのだ。では持たない生き方とは?

休日。読書がスムーズに進む一方でどこか上の空なのだった。