15日に店を閉めた後、高橋源一郎氏の『「悪」と戦う』を買った(実は初めてなので『さようならギャングたち』も一緒に)。twitterで著者本人によるメイキングが語られており、興味を持った。でもまだ読んでない。ちょっと間を空けたくなったのかもしれない。

実は次の土曜日まで休みなのである(フクちゃんの散歩を除けば)。5日もあれば何か作れるぞと思い、会社員時代の小話でも書こうかとふと思ったが止めた。外をぶらぶらする事にした。午後の外は明るく、目を開けていられない位だった。体力もめっきり落ちている。何か作るには作る熱のようなものが要るが、作り続けるには体力が要るものだ。

カーニバルで鷹の爪(唐辛子)を買い、ついでに外国のビール(何だか忘れた)を買って飲んだ。オーナーの誕生日プレゼントに代謝を良くする石鹸かサプリを思いつき、結局「HEALTHY-One」という店で、サプリを買ってプレゼントした。オーナーは「また余計な出費しやがって」とそれなりに喜んでくれたと思う。東急の屋上のペットショップでフクちゃんのリードを注文した。

家を出る前、シャワーを浴びた後に洗濯物を干していると、昔の記憶が色々蘇ってきた。濡れた体が日差しで乾く匂いから始まる記憶は、昔よく読んでいた小説も思い出させた。スティーブン・キングの『it』という、映画化もされたホラー小説(以下ネタバレ含む)だ。彼の小説はかなり判りやすいモンスター(宇宙人とか)もよく出てくるのだが、この物語においては「形を取る」恐怖の源泉が人間の心理にあり、なかなか面白かった(結局大元は宇宙人だったけど)。
自分が繰り返し読んだのはそれだけが理由ではなく、まず長い話なのだった。長いゆえに細部までリアルに書き込まれていて、どこを開いてもそのシーンを楽しめる。また主人公は「はみだしもの」の小学生たちなのだが、彼らが如何にかけがえのない仲間であったか、味わう事ができるからであった(彼らの名前は未だにそらで言える)。
さらに、itである。この物語における「悪」として描かれている。人の心を読み、その恐怖を利用して大人も操る。そして子供を捕まえ、食べる。太古の昔にメイン州の田舎町にやってきたitは、物語内の現代に至るまで、その町の人間を操り、子供を食べてきた。その長〜い歴史もまた細部まで描かれており面白い。主人公たちが立ち向かう相手はそういう悪である。強大であるがゆえ彼らは尋常ではない信念のもとに強く結びついていた。
だがこのitがとてもいいのである。自分の存在への脅威として主人公たちに対し怒り、時には恐怖するのである。itに操られる悪の側の人間達もとてもいいのである。悪の側がそのように描かれているのが、本書が好きな理由である。

だが繰り返し読むというのはそれだけではないらしいのだ。人は同じ本をまた手に取る時、心をチューニングしているのではないかと高橋氏は言う。

メイキングオブ『「悪」と戦う』12の1…スーザン・ソンタグは「二度読む価値のない本は、読む価値がない」と書いています。そうです。一度しか読まない本はたいてい、読む価値がなかったのです。でも、逆に、何度も繰り返し読む本があります。もちろん、ぼくにも、そんな本が何冊もあります。less than a minute ago via web

メイキング12の2…何十回も、いや何百回と読み返す本、ぼくはずっとそんな本が書きたかったのでした。でも、どうしてそんなことが起こるんでしょう。何度か読めば、物語も登場人物のセリフも、ことばのひとつひとつまで覚えているはずなのに。どうして、それでもまた、読み返したくなるのでしょう。less than a minute ago via web

メイキング12の3…それは、おそらく、その本が、ぼくたちの心を「チューニング」してくれるからではないかと思うのです。コンサートの前に、オーケストラが、オーボエのAの音に合わせて、楽器のピッチを合わせる、あの光景のように、日々の暮らしの中で、心のピッチが狂っているなと思える時…less than a minute ago via web

メイキング12の4…そんな時、目を閉じ、その本が発する静かなAの音に耳をかたむけていると、狂ったピッチが元に戻ってゆく…そういう本をぼくは大切にしています。物語や華麗なことばづかいではなく、そこに漂っている、背筋をぴんとさせるなにかを読むために、繰り返し、その本の頁を開くのです。less than a minute ago via web

(まとめはこちら→高橋源一郎氏自身による、''新著『悪と戦う』メイキング''
もしそうだとすれば、自分の「背筋をぴんとさせるなにか」は何だろうと考えたら、およそこういう事だった。

  • 世界は全てが相対的であり、不条理な恐怖が常に存在していること
  • 不条理に打ち勝つには、かけがえのない何かを心の底から信じる必要があること

確かにぴんとさせられるかも知れないが、今の自分にはいささか途方にくれるような感じがある。

小銭入がボロボロになっていたのでむげん堂で新しいのを買った。210円。いせやで焼き鳥でも食べようかと思ったが、開いてなかったので公園内の「ブルースカイコーヒー」で黒エールを飲んだ。