自然


『pina』を観た。これまで観た3D映画の中で一番だった。
元々ヴィム・ヴェンダース監督の作為は好きだ。
いつも狙いが明確で、幻想を乾いた現実に落とし込む。
この映画の一番の魅力はPina Bauschという人間の姿を伝えてくれる事だ。
彼女は美の力や愛を信じていた。言葉では伝えられない、人間が持つ感情とその集積を
積極的な肯定も否定もせず、美に昇華させる術を持ち、実践し続けた。
それは生きている素晴らしさを感じさせ、彼女はそれと人間を愛した。
彼女がどんな生い立ちだったか、何に悩み、何を考えていたのかはわからない。
この映画では彼女の作り上げたものと、彼女に関わった人達の姿が肉感的にとても美しく描かれている。素晴らしい。


創作行為においても美は自然だと思う。公開に至る過程でいかなる作為があったとしても
作品がまるで元からそこにあったように、時には目の前で起こるべくして起きているように
個人的な思惑やそれこそ感情などが普遍性を持つ別の何かになること
そういう意味で「私」は消え、全てが要素として自然に流れていること
そんな風に思う。
彼女は素材が何であれ、状態を的確に見抜き、美そのものへと導いた。
勿論、自らも美の要素として居る事ができた。


私もそうだが自分が生きる事に怠慢な時、人は醜さに目を向けがちだと思う。
悪意や狡猾さ残忍さ、衝動的破壊や極端な強欲さなどを見て「人なんてそんなものだ」と自分の怠慢の言い訳にして安心しようとする。


ストレス発散の為の虚無的な娯楽と、美や愛を感じ世界に感謝できる芸術と
どちらも人間の生理に基づいて作られる以上、完全に分ける事はできないかもしれないが
Pina Bauschは聖人に近い芸術家だったと思う。彼女が存在し得た事に感動を覚えた。


家に帰って久々にヴェンダースの『Paris,Texas,』を観た。
やはり大好きな映画だった。監督の人間への眼差しを感じた。
ラヴィスは皆の中にいる。ピナもきっといる。