帰途

18時過ぎに帰途につくと、老人の営むラーメン屋がまだやっている
通勤ルートに草むらという店があり、初めてチャーシューメンを食べた
いつもは閉まってるガラス戸から短パンTシャツのおっさんが出てきて
煙草に火をつけて信号が変わるのを待っている。店内禁煙だ
今日は慌てて家を出てきて、職場にあった「はたはたパイ」しか食べてないので
何か食べて帰ろうと思っていたし、多賀谷さんが好きと言っていたし、
寄って帰ろうと思った。


シャキシャキしたおばあちゃんにカウンターを案内された
厨房には老店主の他、閉店要員なのか、壮年と初老のナゾの店員が2人いた
おばあちゃん、老店主は70くらい、あとは40と60くらいか、歳はどうでもいいのだが
客はカウンターでもぐもぐしている若者と、テーブルに同い年くらいの外国人男性が2人
チャーシューメンを頼んで白黒のモニターを見ると、多分外の映像が映っていた
そこそこ広い通りなので、車がひっきりなしに流れる。
「すいません、わんたんめんとは、なんですか」日本語をしゃべれる方が
おばあちゃんに訊くと「しょうゆ味のらーめんに、わんたんが入ったものよ」と
答が帰ってきて、よくわからないまま、仕方なくもう一人に翻訳していた。


カウンターには(電話禁止)の文字があり、通話するなって事だろうなと思いながら
ビールを飲んで位置的に半分しか見えないモニターを眺めていると老店主がうなった。
見るとチャーシューを切った後で、丼を3つ並べていった
麺を茹でる時、スープを丼に入れる時、湯切る時、店主はんーむとうなった
説明がなくてもなんとなくわかるものは、いい。老人の営む店が好きだ
ナゾの店員は何かを手元で触ったりしながら後ろからそんな店主を見ていた
早く帰りたいのかなと思った


草むらのらーめんは確かに醤油味で、少ししょっぱかったけど、
一口すする度に煮干が目に浮かぶようなスープだった。これくらいがいい
極にぼとか、そういうのも嫌いじゃないけど、これくらいが一番うまい
味にクセがない弱い縮れ麺、薄いチャーシュー数枚とゆで卵が乗っていた
気がする。それぞれ味はうまいのだが、スープの記憶が一番強い
素晴らしい脇役、ごちそうさまでした。


領収書をもらって店を出ると、内側のブラインドカーテンが下ろされた
19時までに入らないと食べられないんだと思った
早い時間の帰途には、駅の裏側や参道近くで老人のラーメン屋がまだやっている
今日の東京は気温が上がったらしく、開け放しの窓の内側からテレビの音が聞こえてくる
今日はうちの窓も閉め忘れていたけど、特に物が減っていることもなく
冷蔵庫にエビスビールが一本残っていたので
よし、と思った。