嘘と筒

坂口恭平の『哲学と冒険』の第一部が終わった
「想像した事も実在する現実」という生き方は
行動原理にすると面白いが、個人的だと思った
実在人物が出てくるフィクションとして読んでいたし
『哲学と冒険』というフィクションは存在しているが
語られている内容は現実とは思えなかったからだ
しかし現実として書く事で、現実に働きかける力は
確かにあるのかもしれない


自己を保てない男が主人公の小説
ペレーヴィンの『チャパーエフと空虚』を
引っ張り出してきてまた読み始めている
「これは現実について書かれたものです」
とでもいうかのような前書きが付いているが
前はよくできたフィクションとして読んでいた


子供の頃はフィクション、ノンフィクションの区別なく
どんな本でも読むと文字通り「新しい世界」が広がった
本に書かれている世界は、自分の生きている世界と感じていた
それがいつの間にか、自分の生きている世界とそれ以外の世界と
区別をつけるようになっていた


やっぱりそれ以外の世界は、実感が薄い
「こんな感じのやつか」などと勝手に類型化して
目新しさだけが印象に残り、中身も覚えていない
でも改めてこれは自分の生きている世界の話だと
何故なら生きている誰かが想像した事が書かれているのだからと
そう思いながら読む事ができたら、また感じる事ができるかもしれない
読書が大好きだった子供の頃のように


だからヴィクトル・ペレーヴィンの本も
「想像した事も実在する現実」と思いながら
読んでいこうと思っている
やっぱり個人的な考えのようではあるけど、
他人も同じように行動する事はできるという意味では
社会的な働きかけになっているのかもしれない


筒の話。
自分は基本的には情報を通す筒だと思っている
筒だから言いたい事や主張はないのだけど
五感から得た情報を整理して吸収する中で
感じた事をぽっと吐き出したいと思う
それはほぼ生理的なもので、生きている記録である
このブログの名前に嘘が入っているのは昔撮った映画で、
自分の親父が言うセリフからとったのである

あんた随分長え髪だな
え?
なんだよその髪は。長い
ああ、だいぶ伸びました。最近は髪の毛に生気をとられてるみたいで
けっ(花札をめくる)へっへっへ(何か役が出来る)
この店は長いですか
長い
儲かりますか
儲からねえ
でも何とかやっていけるんですね、羨ましい(酒を飲む)これ何ですか
「自家製」だよ
もう一杯ください(注がれ、飲む)
何が起こるかわからない、なるようにしかならない、僕にはそれしかわからない
僕はずっと、自分が自分でいることを放棄して生きてきたんです
なんでだ?
だって、取り返しのつかない事って一番こわいです
仕方ないだろ。時間は進むよ
わかってるんです。本当は自分の根が欲しい
そりゃあ、欲望だよ
欲望?だったらみんなそんな変わらないじゃないですか
自分の根っこはみな同じで、記憶と、ふらふらした自意識が自分…ああ、嫌だな
いいじゃないか、あんた今のままじゃ、カス、役無しだ
都会じゃ流行ってるかしらないが、あんたの言っている事は無意味だ。役に立たないクソの紙屑だよ
踊れ。踊るんだ
踊る?
そうさ、ダンスの楽しさは人生の楽しさだ
あ、姉さん…
あんたはまだ寝小便たれだ。ちなみにこれ(酒)は俺の小便だ
え、まさか
嘘だよ
嘘ですか
くだらねえ嘘だ。酒と、ダンスと、嘘!

これが意味があるようで意味のない
昔の筒が吐き出したものであるが
一番気に入っているシーンである

※11m40s辺り〜