ジャック・ラッセル・テリア

人生はビギナーズ』が素晴らしかった
Netflixで恋愛映画を探していて見つけた映画で
ジャンルはコメディになっていた
観たことがない人には、是非観て欲しい



やっぱりどう素晴らしいと思ったか
書かないと観てみようとは思えない
父親の死から始まる話だった
死ぬ前に自分がゲイであることをカミングアウトして
恋人を作り仲間とのパーティや恋愛を楽しむ父親
息子はカミングアウト前に亡くなった母親との
子供の頃の時間を思い出す
全然コメディじゃないが
父親はアーサーという小型犬を飼っていて
息子はアーサーと一緒に生きていく事になる


①アーサーが素晴らしい
可愛らしい犬というだけでなく
悲しみを持ち続ける息子に犬として向き合う姿が素晴らしい
慰めるとかではなく、自分の生理でそこにいる犬である
実は作品にとっても重要な役なのに
「そういえば犬もよかったな」的な印象になるかもしれないくらい
完璧な仕事をしていて、もちろんやっぱり可愛くて
こんな犬になりたい


②設定が素晴らしい
父親はガンで、治療はしながらも特別抗う事もなく好きなように生きて死ぬ
独りになった息子は、イラストレーターかアートディレクターで
地球に発生した悲しみをイラストにして、時系列に並べる
相対化することで自分の悲しみも消化しようとしていたのかもしれない
なぜゲイの父は母と結婚したのか、母は幸せだったのか
1940年代にユダヤ人であること、ゲイであることは
どういうことだったのか思いを馳せることもできる
描かれるイラストは率直で、観客は自分の経験と重ねることになる
息子は求められていない私情を入れるので、仕事はうまくいかない
仮装パーティで知り合ったホテル住まいの女優に夢中になる
女優は意外性のある事をすることが自分にとって楽しく
また他人にとっても魅力的であることを知っているが
やはり家族についての彼女だけの悲しみを持っていて、それは必要以上に語られない
話の筋はシンプルで、設定も至ってリアルだと思う
ガープの世界』のように劇的な展開もないし
悩みは簡単に解決せず、色んな事が都合よくはいかない
(『ガープの世界』も都合よいというわけではない)
悲しみと記憶と恋に向き合う、主人公である38歳の息子は
歴史的に出来事を整理する向き合い方を選ぶ
母親との時間が、女優との時間にも生きている


③演技と撮影と編集が素晴らしい
父親を演じるのは『サウンド・オブ・ミュージック』でトラップ大佐を演じたクリストファー・プラマー
息子を演じるのは実生活では2人の子と2人の養子がいるユアン・マクレガー
息子と恋をする女優を演じるのは『イングロリアス・バスターズ』で映画館の館長として復讐を遂げようとしたメラニー・ロラン
「こうであったらいいのに」と夢想するような
都合のよいこと、奇跡的なことは起こらないが
日常としては十分劇的なこと、刺激的なことが起こる映画である
登場人物と一緒になって、悲しんだり、喜んだり楽しんだりできた
日常を生きて見せる役者たちの演技だけでも十分に魅了された


日常といえば手持ちも多い撮影だが上手だった
過不足なく意味のある日常を切り取っていてよかった
舞台はロサンゼルスだが、あんなところに住んで犬の散歩をしたい
寄り引きの画角に監督の性格が感じられるところもあったが
やはり日常的なものを最後まで飽きずに見られたのは
演技の他に撮影された画と編集の功績が大きいと思う


編集はどういう意味を観客に印象付けるかが大事だが
何より生理的に気持ちよいかどうかが重要だと思う
先に挙げた息子の「歴史的アプローチ」は全編を通して編集でも生きていて
とても自然に過去の父親、母親と息子の時間が挿入されていた
日常を生きていると、ふいに過去が挿入されるのは自然な事だと思う
登場人物が魅力的であることは
観客に最後までつきあってもらう為の重要な演出のひとつだが
撮影も編集も大いに作品を牽引していたと思う


この映画が素晴らしいと思った理由を書いてみたが
果たして伝わるかはわからない
もうひとつ理由を書くと、自分が勝手に受け取った主張みたいなもの
「体験が人を作るとはいえ、出来上がった人に対して
これからも同じ事が起こるわけじゃない
どうしようもない悲しみはあるけど、ともあれ
あなたと幸せに生きようとしてみようじゃないか」
みたいな感じであり、ネタバレになっていないか不安ではあるが
観て不幸になることは無いと思うし
むしろ優しい気持ちになると思うので
観たことがない人には、是非観て欲しい


「あんなによい演技をする人なのに」
ユアン・マクレガーが不倫していた事に
彼女はすごくがっかりしていた