『タイヤ』

僕は漫画の単行本を沢山持っている。
といっても二百冊程度だろうが
数十回の整理を経て手元に残っている本は
自分にとって大切なものだ。

中でも時間が経つ程に手放せなくなっているのが吉田戦車の『タイヤ』である。
10年以上手元に置いているのは他に『おしいれのぼうけん』位だ(これは絵本だが)。
確か中学生の時『伝染るんです。』が流行っていた頃に買った記憶がある。

目次
・ヤクザでゴー
・ヤクザでゴー外伝/はたらくひとたち
・肩守り
・ちょうちょをとる
・春ゴムのうなぎ煮
オフィスユー
・カレー
・川辺の家族
・小春日和
・ミクロ光線
・簡単な嫁のなり方
・木人の店
・ぶどう
・コーヒー牛乳の7つの作り方
・カエル年代記
・犬の方法
・タイヤ
・あとがき

吉田戦車の単行本には稀と思われる、本筋がタイヤに関係無い
短編・中編が殆どで(「タイヤ」は他の作品の間に挟まれる4コマ)
ヤクザネタの4コマ、OLネタのコメディ、ファミコンぽいSFなど多彩なのだが
特に人間ドラマというか家族が描かれている作品群が出色であった。
「ちょうちょをとる」…犬に蝶を取らせる伝統行事にまつわる、とある田舎の女子高生と愛犬さとまつの奮闘記
「川辺の家族」…ユーリ・ノルシュテインの『話の話』の一部のような、外国のある家族の日常が「引き画で横にスライドしていく」という独特の画角で描かれる
「木人の店」…人の心を持つほど精密に作られた伝統工芸品「木人」の天才職人の息子とその息子を捨てた母親との確執
などである。
どれも「ヘンなモノが日常にある世界を日常として描く」といわれる
吉田戦車独特の世界なのだが、これらの作品では少し感傷的な印象が強く残っている。
後年ユーリ・ノルシュテインのアニメを知った後で
「川辺の家族」が『話の話』の一部に似ている事に改めて気付き
驚いたりもした(作者があとがきで書いているのだが当時は知らなかった)。
ちなみに「小春日和」も小津安二郎である。


また作品の間に挟まれる見開きの作品「春ゴムのうなぎ煮」「コーヒー牛乳の7つの作り方」「簡単な嫁のなり方」は
ここまでいい加減な事を描けるものなのか!と中学生の自分には衝撃的だったし(ほめ言葉です)
「肩守り」「ぶどう」の哀愁もなんだかわからないけど切なくていいなあと思った。
その他の作品も面白い。僕がカレーが好きになったのは「カレー」の影響だと言ったら過言になるが
吉田戦車すげえなあと尊敬の念を持ち、影響されたのは間違いない。


数年振りにさっき読んだが、共感が大きくなっているような気がして面白かった。
こんな作品を作りたいなあと思ってしまった。